ディズニーはまだ「生きている」。『アナと雪の女王2』は凍ったスタジオを溶かした作品であるという話

2020/05/30

WDAS ディズニーリバイバル

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ディズニーはまだ「生きている」。「アナと雪の女王2」は凍ったスタジオを溶かした作品であるという話







ディズニーには「黄金期」というものが存在する。





社会的に評価され、興行収入の良い、いわゆる世間一般でいうところの「ヒット」を何作も連続して発表する時期のことであり、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオは今まで何度もの黄金期を経て現在に至る。






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現在WDASは長い歴史の中で3度目の黄金期の丁度真っ只中で、『プリンセスと魔法のキス』公開の2009年から今日までをファン間ではディズニーリバイバル(復活)期と呼ぶことも少なくありません。






しかし私は2018年の時点で、ディズニーは「終わった」と感じていました。



「終わった」とハッキリ言い切ってしまうと色々な語弊が生まれそうですが、とにかく「あぁ、ディズニーもここまできたのか」と半ば諦め、半ば絶望のような感情を抱いていたのです。





詳細は後に詳しく書きますが、一言で言えば「グリム童話を観に来たらザ・ノンフィクションが流れてきた」みたいな状態でした。





だから『アナと雪の女王2』に対してもさほど期待せず劇場に足を運んだ…のですが。


この作品についてはね、もう拍手しか出てこなかったんですよ。











  • ディズニーは一度"終わった"




ディズニーは「終わった」と言いましたが、ではまず長年のディズニーファンだった筆者がそう思うのは何故か?というところから説明していきます。



近代WDAS作品は確かに、興行収入面では大成功と言える作品が多いです。
しかし明らかに今までのスタジオとは変わったところがあるのです。









これを説明するためにある表を作ってきました。
多分深夜に真顔でこんなん作ってるの世界で自分くらいしかいないと思うんですけど。




WDASディズニーリバイバル3DCG作品」の分布図です。





一般的な分布表と同じように上にあるほど「現実的な舞台設定」、下にあるほど「ファンタジックな舞台設定」、右にあるほど「メッセージ性のある考えさせられる作品」、左にあるほど「ストーリー性(おとぎ話性)が重視された作品」を示しています。



塔の上のラプンツェル、シュガーラッシュ、アナと雪の女王、ベイマックス、ズートピア、モアナと伝説の海、シュガーラッシュオンライン





今までのWDAS作品は主に「ファンタジーの世界や、昔の時代設定」を舞台にした作品(左)、そして基本的に「ストーリーが重視」されている(下)、ということを前提としています。
もし現代社会への風刺的なメッセージなどがあったとしても、それはストーリーの裏側に隠すようにして散りばめられていました。どうでもいいけど中の人はこの「映画に隠されたメッセージを探す」ことを「宝探し」と呼んでいます。ワクワクするからね。





しかし近代のディズニーはストーリー(おとぎ話)性よりも「伝えたいメッセージ」(右)の方が表に立ち、先行してきていることがわかります(アナ雪やズートピアなど)。もしくはベイマックスのように舞台が現実的になっているか、モアナやシュガーラッシュのように全部を折衷しているかです。



左下(今までのディズニー作品と同じ)にあたる「ファンタジーが舞台で、一貫しておとぎ話」という作品はラプンツェル以降製作されていないという訳です。





この傾向については、一概に悪いとは言えません。





宝探し好きの筆者は今の「メッセージ先行!ポリコレ!」的なゴリ押しは確かに苦手なのですが、表のいちばん右下(強いメッセージ性があり、ファンタジックな舞台)に位置する『ズートピア』はディズニーの誇る名作だと思っています。






これは何故かというと、作品の持つ深いメッセージ性もさることながら、「舞台がファンタジーだから」(下)なんですよね。


確かに伝えたいメッセージありきのストーリー展開に見えるし、現代社会に通じる重く現実的な風刺を放っていますが、それ以前に「ズートピア(動物)」の世界観は壮大で、ファンタジックで、「この世界に行ってみたい!」と思うような没入感があったんですよ。





これは逆も然りで、『ズートピア』の真逆(ストーリー性が強く、リアリティのある舞台設定)に位置する『ベイマックス』も現代の日本(とサンフランシスコ)を舞台にしながら、主人公ヒロの心情に寄り添うことの出来る魅力的なストーリー展開が為されていました。






問題なのは、『Ralph Breaks the Internet(シュガーラッシュ: オンライン)』です。



ここでもう一度さっきの表と同じものを表示します。



塔の上のラプンツェル、シュガーラッシュ、アナと雪の女王、ベイマックス、ズートピア、モアナと伝説の海、シュガーラッシュオンライン




「シュガーラッシュ: オンライン」はメッセージ性が強い(今までの場所からの解放、SNSでの誹謗中傷、ラルフがプリンセスになる展開……など)だけでなく、舞台が身近も身近なインターネットの世界なんですよ。


これは表の右上(メッセージ性が強く、リアリティのある舞台)に当たります。
つまり、今までのディズニーとは全くもって「真逆な訳です。




世界観に対する没入もクソも無いです。
だって私たちが毎日のように触れているネットの世界を可視化しただけなのだから。






今までは「ファンタジー、おとぎ話」だったディズニーが、2012〜2016まででじわじわと変化していき、そしてシュガーラッシュオンラインで完全に「現実の話」に変わってしまったんですよ。





ここまで来ると、もう「ディズニーがディズニーである必要って何だ?」といった話になってきてしまいます。
ただの社会風刺的な、リアリティのある現実世界の話なんてのは他でいくらでも観ることができるからです。



別にプリンセスのパロディだってネットあるある的な小ネタだっていくらでもやればいい。「ディズニーがそれをやるか!」みたいなギャグも嫌いじゃない。だけどそれは「おとぎ話」が成立したあとで、小ネタとして挟んであったからで、それをあからさまに前面に押し出すようなことはしてほしくなかった。
ショーじゃなくてビジネスなんだと思い知らされたようでした。






中の人が好きだったディズニー映画は「現実じゃありえないファンタジーの世界」であって、「夢と魔法が詰まったストーリー」であって、決してポップアップ広告と広告ブロッカーが争ったり、SNSで誹謗中傷されたり、バズった動画でお金を稼いでネットオークションに参加したりするような世界じゃなかった


「シュガーラッシュオンライン」は今まで確実にあった一線を超えてきたな、と思っています。ラルフとヴァネロペが迷い込んだインターネットの世界はやけに生々しくて、ダーク路線で、その結果「こんなのディズニーじゃない!」と騒ぎ立てるモンペ(自分)が見事に爆誕してしまった訳です。





いちオタクの綺麗事でありエゴに過ぎませんが、悪い意味でこの作品は衝撃的すぎました。時間をかけて受け入れていこうと思います。









これがつまり、先述した「グリム童話を観に行ったらザ・ノンフィクションが流れてきた」的な絶望感を筆者に与えた訳です。









手書きを辞めようが、レリゴーだらけになろうが、あからさまにポリコレを感じさせる作風になろうが、それでも私はディズニーが好きだったんですよ。そこにまだ希望があったから。

だけどディズニーは完全に変わってしまったんです。




「シュガーラッシュ」や「アナと雪の女王」、「ズートピア」といったリバイバル作品達は、大きなセンセーションを巻き起こし、今までのディズニーファンだけでなく一般層からも大いに評価されている作品です。
だから「シュガーラッシュ: オンライン」を観たあと、「あぁ、WDASはもうおとぎ話が好きなファンや子供ではなく、一般の、大人に向けて映画を作るようになったのか」「ここで過去のファンとは別れを告げる気なんだな」と、そこまで重く考えました。まさか自分がディズニーに対してメンヘラ的な感情を持ってたなんて本人も驚きです。



そして筆者は「2018年でディズニーは一度終わった」と評価しました。



好き嫌い云々ではなく、ある章がここで終わり、生まれ変わってまったく新しいものを生産したという意味の「終わり」です。







  • 低かったアナ雪2の期待値




そのため「アナと雪の女王2」も観る前はあまり乗り気ではありませんでした。もう良い意味でも悪い意味でも「シュガーラッシュ:オンライン」を超える衝撃はやってこないと思ったから。






しかし観てみたら、どうだ。


おとぎ話に入り込んだかのような芸術性の高いアレンデール王国、エルサの雪の魔法、森を守る4つの精霊達……そして、壮大なストーリー。




「アナと雪の女王」とも「シュガーラッシュ:オンライン」とも違い、ディズニーがストーリーそのものとしっかり向き合うようになっていたんです。大きなスクリーンに写し出されたのは「女性の社会進出がどうこう」「自分の中にある差別意識がどうこう」みたいなむずかしい話じゃなくて、「ネットやスマホがある現実世界」でもなくて、ただの「フィクション」であり「ファンタジーの世界」だった。

それでいい。それ"が"いいんです。






本作でも民族との争い(サーミ人)を描いていますが(多分後編で詳しく書きます)、それはあくまでストーリーに必要なものだからであって決して一番前には出てきません
アナ雪2は、筆者が好きだった「宝探しのディズニー」なんですよ。









ディズニーは実に9年ぶりもの時を経て、やっと左下に戻ってきてくれました。








これが筆者にとっては何よりも嬉しかった。

「アナと雪の女王2」はかつてのディズニーファンのための映画なんですよ。










だから筆者は「アナと雪の女王(2013)」よりも何よりも、「アナと雪の女王2」を評価せざるを得ないんですね。WDASの3DCG作品で一番好きなのは?「アナ雪2」名作は?「アナ雪2」観てて楽しいのは?「アナ雪2」。もはや宗教レベルで崇め奉っています。



(1より低い評価つけてる人信じられないんですけど、多分レビューで「前作には負ける」とか書いてる人はWDASのファンじゃなくてアナ雪フランチャイズのファンかディズニーに興味ない人です。いや知らんけど。)






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  • 「リアル」じゃなくて、「信じられる」世界



『アナと雪の女王2』共同監督のジェニファー・リーはインタビューで「確かに現代のCG技術を駆使すれば、リアルな映像はいくらでも作り上げることはできると思います」とした上で次のように語っています。




「でも、私たちが描きたいのはリアルな世界ではなくて"信じられる世界"なんです。」 
「私たちは自分たちが暮らしている世界をCGを使ってコピーしたりマネするのではなく、観客に現実とはまるで違う世界に放り込まれた感覚を味わってほしいと思っています。それこそが、今までディズニー・アニメーション・スタジオがやってきたことです。」 
「スタジオにいる人たちはみんなディズニー作品が大好きで、だからこそここで働いています。『Frozen 2』にはベテランの2Dアニメーターも才能あふれるCGアーティストもみんなが参加してくれて、美術の画の1枚ごとに、キャラクターの動きひとつに愛情と魂をこめてくれました」




よくわかってるじゃぁぁぁぁん!!!!!

リー監督のことを一気に大好きになりましたね。







シュガーラッシュオンラインの公開時に「プリンセスのネタがアニメイター達の試写でウケたから、"もうディズニーを聖なるものとして扱わなくてもいいんだ!風刺してもいいんだ!"と思いました」ってコメントした挙句作品そのものをラルフの如くぶっ壊したリッチムーア監督にぜひ読んで頂きたいですね。ええ。






  • おわり


という訳で筆者のお気持ち表明はここまでです。

後編は「アナと雪の女王」本編の内容について魅力についてネタバレを含みつつ触れようと思います。












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ディズニーファンの父親の影響で0歳の頃からディズニーアニメ漬けの毎日を送っています。
一番好きなディズニープリンスはエリック。一番好きなサイドキックはムーシュ。
アランメンケンが自分の第2の父だと勘違いしながら生きてます。

東京のパークも好きで足繁く通います。共通所持。

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